妊娠・授乳期のアルコール摂取に関する調査

調査レポート

examination code : bgl02

PDFレポートダウンロード

はじめに

 

妊活・妊娠・授乳中の女性とアルコール

株式会社京橋ファクトリーはWEBサイト「ビール女子」(http://beergirl.net)を運営しており ’14 年 8 月に 3 回にわたり連載したコラム「産科医に聞く、ビール女子の妊活事情*」において、ユーザーから大きな反響をいただいた。このコラムでは産婦人科医である竹内正人氏**にインタビューを行い、妊娠中・妊活中・授乳中それぞれの時期での飲酒にどれくらいの量でどのようなリスクがあるかについてを解説している。

 

妊娠〜授乳を経験した女性たちの意識

そこで、ビール女子総合研究所では、実際に妊娠・出産・授乳を経験した女性たちが、飲酒による胎児・乳児へのリスクをどのように認識していたのか、どのようにアルコールと付き合ったかを緊急調査した。

 

「ビール女子」とは 「ビール女子」( http://beergirl.net )は、ビール好きの女性のための情報サイトおよび女性コミュニティである。ビールの種類を 5 人の女子キャラクターで擬人化した『ビール女子キャラクターズ』、ビールに合うおつまみレシピ『ビール女子kitchen』、女性向けのビールのおいしいお店情報『おすすめ店舗』、ビールに関わる女性をインタビュー形式で紹介する『ビール女子インタビュー』など、女性がよりビールを楽しむためのコンテンツを通して、ビールの魅力をわかりやすく、楽しく発信している。また、よりおしゃれで楽しいビア・ライフを提案するため、ビア・ピクニックやビール女子座談会など、リアルの場でのイベントも行なっている。女性にとってよりビールが楽しくなるよう、コミュニティを通じてビア・ライフスタイルを提案している。

 

* WEBサイト「ビール女子」産科医に聞く、ビール女子の妊活事情
Vol.1 妊娠中ってビール飲んだらダメなの? http://beergirl.net/health01-1/
Vol.2 妊活中はアルコール制限よりもまずライフスタイルを見直そう! http://beergirl.net/health01-2/
Vol.3 授乳中のママがビールを飲むタイミングとは? http://beergirl.net/health01-3/

** 竹内正人氏(産婦人科医) WEBサイト http://www.takeuchimasato.com

 

本調査の概要

全国の妊娠・出産経験があり、妊娠・妊活前に少しでも飲酒をしていた女性( 457 人)に対し、妊娠・妊活前の飲酒頻度の違いが「飲酒を控えた時期」や「妊娠・妊活前と現在での飲酒量の変化」に違いがあるかをそれぞれの理由とともに調査した。
まず、全被調査者に対し「妊娠・妊活前にどれくらいの頻度で飲酒していたか」について調査した。この結果から『飲む習慣がなかった』『月に数回飲んでいた』『週に 1 回以上飲んでいた』の 3 群に分け、「妊活・妊娠・授乳中に飲酒を断(た)ったか、断ったならいつ断ったか」「再開したか、再開したならいつ再開したか」「妊娠・妊活前と現在を比べて飲酒量が変化したか」を調査した。

調査方法はインターネットによる無作為抽出、調査日時は ’14 年 12 月 10 日 16:00 〜12 月 19 日 0:00 、調査会社は株式会社うるるを利用した。

本報告書において、『飲む習慣がなかった』『月に数回飲んでいた』『週に 1 回以上飲んでいた』 3 群間の相関の検定は特に注釈がない場合、モンテカルロシミュレーション(試行回数:2000)を用いた Fisher の直接確率検定を 10 回行い、有意水準を 1% とし、最大となった p 値のみを示した。また、3 群のうち、それぞれの 2 群の検定を行う際は特に注釈がない場合、Fisher の直接確率検定を使用し、有意水準を1%(Bonferroni 補正後有意水準:0.33%)とし、p値のみを示した。また、形態素解析は MeCab を使用し、統計解析ソフトウェアとして R を利用した。

結果として、『飲む習慣がなかった』群は他の 2 群に比べ飲酒を断った時期、再開した時期に大きな差があった。また、『飲む習慣がなかった』と『週に 1 回以上飲んでいた』との間で、「妊娠・妊活前と比べた現在の飲酒頻度」に差が認められた。

この調査では、妊娠・授乳期のアルコール摂取のリスクについての知識への理解、子育て前後でのアルコールとの付き合い方の変化を明らかにしていく。

 

調査内容

「妊娠・授乳期のアルコール摂取に関する調査」を行うにあたり、はじめに「妊娠・妊活前の飲酒頻度」を調査した。これによって『飲む習慣がなかった(習慣なし)』『月に数回飲んでいた(月に数回)』『週に 1 回以上飲んでいた(週 1 以上)』の 3 群に分けたのち、以下の調査を実施した。

① 妊娠したことでお酒を断(た)ったか、断(た)ったならいつごろ断(た)ったか(断酒開始時期)
② 飲酒をいつごろ再開したか(飲酒再開時期)(基数:①で断ったと答えた人)
③ 妊娠・妊活前と現在で飲酒量は変化したか

それぞれ理由とともに回答していただき、ここから、妊娠〜授乳期のアルコールのリスクの理解度・どのように付き合ったかを探ることを目的とした。

 

飲酒の習慣の有無で断酒開始時期に差は認められなかった

お酒 妊娠 授乳
インターネットを利用しており、妊娠・授乳経験のある、妊活・妊娠前にお酒を飲んでいた女性 457 人を『飲む習慣がなかった(習慣なし)』『月に数回飲んでいた(月に数回)』『週に 1 回以上飲んでいた(週 1 以上)』の 3 群に分け、「妊活・妊娠・授乳期に断酒したか」を調査した。

その結果、「断酒した」と答えた割合は『習慣なし』が最も低く、『週 1 以上』が最も高くなったが、3 群間での有意差は認められなかった*1。また、どの群も 8 割前後が「断酒した」と回答した。有意差はなかったものの頻繁に飲酒していた群のほうが「断酒しなかった」割合が高い傾向が見られた。

*1:p-value = 0.2526

 

 

有意差はなかったが、それぞれの理由から妊娠・授乳と飲酒に関する意識の差があるかどうかを調査した。『習慣なし』『月に数回』『週 1 以上』の 3 群それぞれの「断酒した」理由、「断酒しなかった」理由をフリー回答で答えてもらった。その回答を形態素解析し、キーワードとその相関関係を調べた。

お酒 妊娠 授乳
まず、『習慣なし』群で「断酒しなかった」と回答したグループの理由のキーワード・相関関係を Fig2-A に示す。ここからまず「特に・なし」といった合成語が浮かび上がった。この回答者グループは飲酒が胎児・乳児へ影響を与えると考えていない可能性が考えられる。次に「もともと・飲ま・ない」といった語が浮かび上がった。このグループは、もともと飲酒の習慣がなかったので、意識して断酒してはいないが結果として飲まなかった可能性が考えられる。

妊娠 授乳 お酒
次に『習慣なし』群で「断酒した」と回答したグループのものを Fig2-B に示す。ここから、ま ず「心配」という語が入った小さな語集団が浮かび上がった。アルコールが胎児に与える影響について何かしらの懸念がある回答グループが存在していると考えられる。次に「もともと・あまり・飲ま・ない」という語が浮かび上がった。胎児への影響というよりは飲酒の習慣がないので、明確な理由を持たず(考えず?)に、断酒した可能性が考えられる。

『月に数回』群では「断酒しなかった」理由からはキーワードが抽出されなかった。これはこのグループに共通した理由がなかったこととなる。
妊娠 授乳 お酒
「断酒した」理由からは Fig.2-C のように抽出された。ここから「胎児・に・よく・ない・から」という語が浮かび上がった。『習慣なし』群と違い、胎児への影響を強く意識していることが推測できる。また、単語集団が大きな一つの塊となり、この理由が大きく共通した理由と考えられる。

『週 1 以上』群でも『月に数回』群と同様に「断酒しなかった」と回答したグループからはキーワードが抽出されなかった。
妊娠 授乳 お酒
「断酒した」と回答したグループからは Fig.2-D のようなキーワードが抽出された。まず「胎児・に・影響・が・ある・から」という語が浮かび上がった。こちらも『月に数回』群と同様に胎児への影響を意識していた。小さな語集団も確認できるが名詞がないことから一貫した意見ではないと推測できる。

ここから、3 群間での有意差は認められなかったが、『習慣なし』群と習慣のある『月に数回』『週 1 以上』の 2 群との間には理由に違いがあった。『習慣なし』では「断酒しなかった」と回答したグループの理由として「特になし」「もともと飲まない」といった語句が抽出され、ここから『習慣なし』では積極的に飲酒していたわけではないことが考えられる『月に数回』『週 1 以上』では共通した理由(語句)が検出されなかった。
また、『習慣なし』群では「断酒した」と回答したグループの理由として「心配」「元々あまり飲まない」という語句が抽出された。ここでは「心配」を含む語集団は小さく、「元々あまり飲まない」を含む語集団はより大きかった。ここから胎児への影響を考えているグループがあるものの、明確な理由はないがあまり飲んでいなかったからというふわっとした理由が最大の意見であった。『月に数回』『週 1 以上』では唯一で最大の理由が胎児への影響を考えてといったものであった。「断酒した」と答えた回答者では、『習慣なし』は能動的な断酒を行った割合が低く、『月に数回』『週 1 以上』は能動的な断酒を行った割合が高いことが推測できる。
また、全員の理由を調査したところ、多くの人が飲酒することで胎児・乳児に何かしらの悪影響があると認識しているものの、具体的にどういった影響が出るかまで言及している回答者は数人であった。

断酒時期は飲酒習慣の有無で差があった

次に「断酒した」と回答した回答者にどの時期に断酒したのかを回答してもらった。
その結果、3 群間での有意差が認められた*2。また 2 群間では Bonferroni 補正後有意差が認められたものは『習慣なし』『週 1 以上』間のみであった。5% 有意水準では『習慣なし』『月に数回』間で Bonferroni 補正後の有意差が認められた*3。ここでも『習慣なし』と飲む習慣があった 2 群(『月に数回』『週 1 以上』)との間に差があると考えられる。
どの群も 6 割以上が「妊娠判明時」に断酒したと回答し、『月に数回』では 8 割以上に上った。『習慣なし』では「妊娠前」と回答した割合がほかの 2 群より多く 25 % を占めた。『週 1 以上』では「妊娠中」と回答した割合が 15 % と多かった。
妊娠 授乳 お酒
 ここから『習慣なし』群では「妊娠判明時」が 3 群内で最も低い割合となっているが、「妊娠前」の割合は最も高くなっている。これは、形態素解析の結果から「もともと飲まない」といった理由が大きかったことが関係していることが考えられる。また、「妊娠中」「出産後」は『習慣なし』が最も低く、『週 1 以上』が最も高くなっている。この 2 つの理由として、妊娠判明時から飲酒量を徐々に減らしていき、完全に断酒した時期が「妊娠中」であったり「出産後」であったりしたようである。これは「妊娠中」「出産後」と回答した回答者の理由(形態素解析する前のもの)から浮かび上がった。(母数が少ないため形態素解析からは導いていない)

*2:3 群間 p-value = 0.000293 *1 % 有意差あり
*3:「習慣なし」「月に数回」間 p-value = 0.009982 *Bonferroni 補正後 5 % 有意差あり
  「月に数回」「週 1 以上」間 p-value = 0.4585
  「週 1 以上」「習慣なし」間 p-value = 0.0007026 *Bonferroni 補正後 1% 有意差あり

飲酒の習慣のない群は妊娠・出産後、再び飲酒をする割合が小さい

 断酒したと答えた回答者に対し「飲酒を再開したかしていないか」を調査した。
妊娠 授乳 お酒
 結果、『月に数回』『週 1 以上』では「再開した」割合が 9 割以上を占めたのに対し、『習慣なし』では 7 割強に留まり( FIg.4 )、3 群間で有意差が確認された*4。2 群間では『習慣なし』『月に数回』間、『習慣なし』『週 1 以上』間で有意差が確認された*5。
 
 したがって、もともと飲酒の習慣がなかった群は、飲酒の習慣があった群(『月に数回』『週 1 以上』)よりも出産・授乳を機に飲酒をしなくなる割合が高い。 習慣がない群では 3 割弱もの人がお酒をやめていることが明らかになった。逆に飲酒の習慣があった人は出産・授乳後も 95 % 前後が飲酒を再開していた。

*4:3 群間 p-value = 1.756e-08 *1 % 有意差あり
*5:「習慣なし」「月に数回」間 p-value = 0.0004393 *Bonferroni 補正後 1 % 有意差あり
  「月に数回」「週 1 以上」間 p-value = 0.4378
  「週 1 以上」「習慣なし」間 p-value = 1.702e-07 *Bonferroni 補正後 1 % 有意差あり

 続いて、「再開した」「再開していない」理由に差があるかどうかを調査した。『習慣なし』『月に数回』『週 1 以上』それぞれの群での「再開した」「再開する予定はない」理由をフリー回答で答えてもらい、形態素解析を行った。

 まず、『習慣なし』群で「再開した」と回答した割合は 72% であった( Fig.4 )。このグループの理由の解析結果を Fig.5-A に示した。左上に「卒・乳・し・た・から」「授乳・が・終わっ・た・から」、中央に「子供・に・影響・が・ない・から」、右側に「理由・は・ない」という語のクラスターが読み取れる。左上のクラスターは「卒乳」「授乳が終わった」といった語から、卒乳後に再開した集団の回答と考えられる。また、中央のクラスターは「子供に影響がない」といった語から、再開時期はわからないが子供への影響がないと各々が考えた時期に再開したことがわかる。また、小さなクラスターではあるが「理由はない」といった語もあり、子供への影響などを意識して再開したわけではない回答者の存在も推測できる。
妊娠 授乳 お酒
妊娠 授乳 ビール
『習慣なし』群では「再開していない」と回答した割合が 28% であった( Fig.4 )。「再開していない」理由の解析結果を Fig.5-B に示した。Fig.5-B の右側に「もともと・飲ま・ない・ので」、左側に「飲み・たい・と・思わ・ない・から」という語が浮かび上がった。前者は元々飲酒の習慣がなかったため、これを機にやめた層、後者は再開しないわけではないが、育児による忙しさや出産後の味覚の変化等何らかの理由で飲む機会が失われている層ではないかと推測される。

 『月に数回』群で飲酒を「再開した」と回答した割合は 93% であった( Fig.4 )。理由の解析結果を Fig.5-C に示した。bgl02_05-C「子供・に・影響・が・ない・から」という語が浮かび上がり、また、語のクラスターが一つにまとまっていることから、多くの回答者が浮かび上がった語に関連する回答をしたことがわかる。ここから再開時期はわからないがそれぞれの判断で子供に影響がなくなったと考えた時期から再開したと考えられる。

 『月に数回』群で飲酒を「再開していない」と回答した割合は 7% にとどまり( Fig.4 )、理由の解析をしたが基数が少なかったためキーワードを得ることができなかった。
bgl02_05-D
 『週 1 以上』群で飲酒を「再開した」と回答した割合は 97% であった( Fig.4 )。理由の解析結果を Fig5-D に示した。 結果、左側に「卒・乳・し・た・ので」、右側に「子供に・影響・が・なくなる・から」、下部に「飲み・たい・から」といった語が浮かび上がった。左側は卒乳後飲酒を再開した回答者の回答とわかり、右側は卒乳後か授乳中かはわからないがそれぞれの判断で子供に影響がほぼなくなったと考えた時期から再開したと考えられる。また、下部は子供への影響は考えながらも飲みたい気持ちを抑えられずに再開した可能性が考えられる。

 『週 1 以上』群で飲酒を「再開していない」と回答した割合は 3% であり( Fig.4 )、理由を解析したが基数が少なかったためキーワードを得ることができなかった。

以上より、再開した理由として共通しているものは「子供への影響」を考慮していることであった(Table.1)。「卒乳した」という理由も子供への影響を考慮したものであると考えられる。『習慣なし』では「理由はない」、『週 1 以上』では「飲みたいから」という回答が特徴的に浮かび上がった。ここから飲酒の習慣がなかった人の一部は「卒乳したから飲んでいい」といったように意識して飲酒を再開したというよりも、その場の雰囲気など受動的な要因で再開した可能性がある。週に 1 回以上飲酒していた人の一部は子供のことを考えつつも飲みたい気持ちを抑えれられなかった可能性が考えられる。
bgl02_t01

飲酒の再開時期はどの群も卒乳後が 7 割以上

 次に「再開した」と答えた回答者に対してどの時期に再開したかを回答してもらった。
 結果、どの群も卒乳後と回答した割合が最も高く 7 割以上となった。『習慣なし』『月に数回』では 8 割を超えた。授乳中と回答した割合は『週 1 以上』が最も高く 25 %、『習慣なし』『月に数回』では 15 % 前後となったが、3 群間での有意差は確認されなかった*6。
bgl02_06
 先ほどの形態素解析の結果からも「卒乳した」というワードが出ており、やはり卒乳後の再開が多数を占めていた。「授乳中」と答えた回答者はその理由として「ほぼ授乳がなくなった(粉ミルクにシフトした)」「飲んだ日は粉ミルクにし、授乳をしない・寝かしつけてから飲んだ」といった意見が複数見られた(基数が少ないため形態素解析未解析・未掲載)。前者は授乳間隔が空いてきた段階で飲み出し、後者は授乳間隔が比較的短い段階でお酒を飲むためにやりくりしたことがうかがえる。

*6:p-value = 0.2124

飲酒量が減少した割合はすべての群で 5 割を超えた

 最後に妊娠・妊活前と現在で飲酒量は変化したかを回答してもらった。結果を Fig.7 に示す。
bgl02_07
 3 群全てで、減少した(「やや減った」「減った」「全く飲まなくなった」)と回答した割合が半分以上を占めた。特に『月に数回』では最も多く 74 %もあった。
 『習慣なし』では「減った」「やや減った」と回答した割合が他の 2 群と比べ 10 ポイント以上の差をつけ最も低かったが、「全く飲まなくなった」と回答した割合は 3 群中最も高かった。また、「変わらない」と回答した割合も 3 群中で最も高かった。
 『月に数回』では半数が「減った」「やや減った」と回答し、「全く飲まなくなった」割合を合わせると 74 %にのぼった。「増えた」「やや増えた」や「変わらない」と回答した割合は 3 群で最も低くなった。
 『週 1 以上』では「増えた」「やや増えた」と回答した割合が 3 群中で最も高く、「全く飲まなくなった」と回答した割合は最も低くなった。

 3 群間での検定では有意差があった*7 ので、飲酒量の変化にも差があったことが示された。どの群間に差があったかを調べるために 2 群間での検定を行った。結果として『ほぼ飲まなかった』『週に1回以上』間では 5 %有意水準での有意差があったが、『ほぼ飲まなかった』『月に数回』間、『月に数回』『週に1回以上』間では有意差がなかった*8 。つまり『習慣なし』と『週 1 以上』では差が確認できたが、『習慣なし』と『月に数回』、『月に数回』と『週 1 以上』では差があるとは言えないこととなり、『習慣なし』〜『月に数回』〜『週 1 以上』と緩やかな違いが生じているようである。

*7:3 群間 p-value = 0.008398 *1 % 有意差あり
*8:「習慣なし」「月に数回」間 p-value = 0.007773 *Bonferroni 補正後 5 % 有意差あり
  「月に数回」「週 1 以上」間 p-value = 0.06985
  「週 1 以上」「習慣なし」間 p-value = 0.1662

『月に数回』で減少した割合が高いのは体質のせい?

 飲酒量の変化について 3 群間では差があったものの、明確な線引きはできなかった。そこで、「増加(増えた・やや増えた)」もしくは「減少(やや減った・減った・全く飲まなくなった)」と答えた回答者それぞれの理由をフリー回答で回答してもらった結果を形態素解析を行い、語の相互関係をプロットしたのち語を繋げた結果を Table.2 に示す。 
bgl02_t02
 3 群とも「増加」の理由として「ストレス解消」が挙げられた。これは育児ストレスや忙しさに対するストレスなどがあったようであった。また、『月に数回』群では「アルコール度数を低くしている」といった回答があった。ここから、子育てがあり、あまり酔うことはできないがアルコール度数を抑えて多く飲むといった方もいるようであった。 3 群共通の「減少」の理由として「時間がない」「飲みたいと思わなくなった」、習慣があった 2 群では「機会が減った」「お酒に弱くなった」が共通の理由であった。どの群も育児等、出産後に取られる時間追われ、ゆっくりお酒を飲めないという方が一定以上存在しているようである。また、「飲みたいと思わなくなった」という意見はゆっくり時間が取れないといった物理的な側面と子供の世話を優先したいといった精神的な側面があることが考えられる。また、習慣があった 2 群では「機会が減った」という意見があった。これは飲む時間がないという理由もあるが、誘いが減ったり、関わる友人が変化したりと産前産後で生活が大きく変化したからだと考えられる。「お酒に弱くなった」という意見もあり、体質の変化なども考えられる。
 『習慣なし』では「減った」「やや減った」と回答した割合が他の 2 群より低かった。その原因として、減らすほど飲んでいなかったことが考えられる。「全く飲まなくなった」の割合が 3 群の中で最も高かったのも、飲む量が減った結果、飲まなくなってしまったからではないかと考えられる。
 『月に数回』では「減った」「やや減った」と回答した割合が 3 群中で最も高くなった。その原因として、育児に気をかけているからかお酒を飲みたいと思う機会が減り、またお酒から一旦離れたことでお酒に弱くなった人が多いようであった。
 『週 1 以上』では「全く飲まなくなった」と回答した割合が 3 群中最も低く、「やや増えた」「増えた」と回答した割合が 3 群中最も高くなった。お酒が好きな人が多いことが考えられる。

 ヒト生体内でのアルコール分解は 2 型アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)が関わっており、ALDH2 は活性型・低活性型・非活性型の 3 タイプあり、それによってアルコール分解能力に個人差が生じていることが解っている*。ALDH2 のアルコール分解能は活性型が最も高く、非活性型が最も低い。また、飲酒を続けることでアルコールへの感受性が低下し(耐性の獲得)、酔いにくくなることも解っている*。
 ここから『週 1 以上』はアルコールを多く摂取することができる活性型 ALDH2 保有者が多く、『月に数回』『習慣なし』はあまり摂取できない低活性型・非活性型 ALDH2 保有者が多いのではないかと推測される。
 『週 1 以上』はもともとアルコールをたくさん摂取することができるため、一旦断酒しても再開すれば断酒前と変わらず飲むことができる人が多かったのではないか。『月に数回』は低活性型・非活性型 ALDH2 保有者が多いが、習慣的に飲んできたため耐性を獲得したのではないだろうか。一旦飲まなくなるとお酒に弱くなってしまうため、飲酒再開後飲む量が減少した割合が大きく増えたのではないかと推測される。『習慣なし』は低活性型・非活性型 ALDH2 保有者が多く、また、飲む習慣がなかったためアルコール耐性も弱く、一旦断酒しても少量ながら断酒前の量を飲むことができるため変わらないと回答した人が多かったのではないか。また、全く飲まなくなることでより飲まない・飲めないようになり、減少したというよりもそのまま飲まなくなってしまう人が多いのではないか。
 これら生理学的理由に加え、時間的・経済的な理由が複合的に影響していることが考えられる。子育てがあるためお酒を飲んでいる時間がない、節約のためといった意見も数多くあった。
 一方で断酒前と変わらずお酒を楽しんでいる人たちも 2 , 3 割いた。そういった人たちは特に理由なく変わらず飲んでいるようだった。また、増加した人は育児ストレス等のネガティブな意見とお酒が美味しく感じるようになった等のポジティブな意見、社会復帰して飲む機会が増えたというどちらでもない意見がそれぞれあった。

* Yamamoto K et al. (1993) Genetic polymorphism of alcohol and aldehyde dehydrogenase and the effects on alcohol metabolism. Jpn J Alcohol Drug Depend 28: 13-25

まとめ

 回答者を妊娠・妊活前の飲酒頻度によって 『飲酒の習慣なし(習慣なし)』『月に数回飲んでいた(月に数回)』『週に 1 回以上飲んでいた(週 1 以上)』の 3 群に分け、調査した。断酒を始めた時期はいつかの質問に対し、3 群すべてで半数以上が断酒時期を妊娠判明時としており、また断たなかったと回答した人もどの群でも 1 割〜 2 割程度いたが、飲酒の習慣の有無で回答に差があった。飲酒の習慣がなかった群(『習慣なし』)は「妊娠判明前」「断たなかった(気にしなかった)」と回答した割合が高く、飲酒の習慣があった群(『月に数回』『週 1 以上』)は「妊娠中」と「断たなかった(量を減らした)」と回答した割合が高かった。妊娠・授乳時の飲酒が基本的には良くないことをほぼ全ての人が認識していたが、飲酒が胎児・乳児にどういったかたちで影響するのかまでわかっている人は全体で 1 %であった。飲酒の有無で回答に差が出た原因として、妊娠期のアルコール管理に対する関心の高さがうかがえる。飲酒の習慣がなかった人たちはすんなり断(た)ったり、断とうと思わなくても断酒が出来たりしたが、飲酒の習慣があった人たちはどう飲めば影響が出にくいか調べたり、つわりがあり飲めなくなったりと、量や頻度、断酒時期に関する管理を判断するための飲む努力をしていたことがうかがえる。
 また、再開時期は卒乳後が大半であった。「卒乳後」と「再開していない」をあわせるとどの群も 8 割前後となり、授乳が終わるまで全く飲まなかった人が多かった。しかし卒乳前に再開している人も少数だがおり、その割合は飲酒頻度が高いほど高くなった。
 飲酒量が妊娠・妊活前と現在で変化したかを質問したところ、全く飲まなくなったり減少したと回答した割合がどの群でも 5 割を超え、特に『月に数回』では 7 割を超えた。この理由として、2 型アルデヒド脱水素酵素( ALDH2 )が関わっていることが考えられる。ALDH2 は活性型・低活性型・非活性型の 3 タイプあり、そのタイプの違いと「耐性の獲得」と呼ばれるアルコールへの感受性の低下の 2 つの生理学的要因が考えられる( Yamamoto 1993 )。これに加え、時間的・精神的・経済的理由が挙がり、これらが複合的に関連しているようであった。

 以上より、一旦飲酒から離れた子育て世代の女性に再び酒類を飲んでもらえるようにするためには、まずはアルコール度数の低いものを勧めることが良いのかもしれない。その点、アルコール度数の低いビールは訴求の仕方によっては最初に手をつけやすいお酒ではないだろうか。クラフトビールなどの流行にともない、ビールに対する既存のイメージが崩れはじめ、またクラフトビールを中心によりアルコール度数の低い“セッションエール”というスタイルも普及しつつある。また、各大手メーカーでは 2 年ほど前からビアカクテルに力を入れたり、2014 年後半からはアルコール度数が低めなフレーバードビールも数社から登場している。
 また、ビールに多くの種類があることも認知されつつあり、これまでとは異なる味や香りの様々なスタイルのビールが消費者の目に触れ始めている。これまでの独占的なビアスタイルからリーチされた消費者以外の様々な層にリーチでき、産前から産後育児期への生活スタイルの変化にフィットするような製品や飲み方なども考えられるのではないか。その日の気分や飲む時間によってスタイルを変えたりすることができるのも一つのメリットとなるかもしれない。また、あるビールメーカーでは小ビンにスクリューキャップやツイストオブキャップなどを採用し、街中でも飲めるような図らいをしているが、これは育児をしている女性にも喜ばれる可能性があるのではないだろうか。

 このようにバラエティに富んだビールの登場は妊娠・出産に伴い、お酒から離れた女性に対してのアプローチ方法の一つとなると考えられる。

  • ビールの購買をためらう女性に関する調査 第2報

    調査レポート第2報を近日公開予定です。